オーガニックについて
ブラジル、エクアドル、メキシコのコーヒー生産者は「いのちを大切にしたい」
「子どもたちに美しい自然ときれいな川を残したい」という思いで、農薬や化学肥料に
頼らず、人の手と土・自然の力を活かしたコーヒー栽培に取り組んでいます。
だから、スローコーヒーはフェアトレードで安心・安全・高品質で地球にもやさしいのです。
「カルロスさんのコーヒー」の物語
今から30年ぐらい前のこと。
「ブラジルでは、農薬を使わないとコーヒーはつくれない。」と言われていた時代。
(故)カルロス・フェルナンデス・フランコさんのジャカランダ農場でも、農薬を使っていました。
農場内には池がありますが、農薬を散布した後に池に魚が浮かんで 死んでいたり、農薬を散布した農夫が頭痛を訴えたり、おかしなことが 起こっていました。
しかしその当時、「農薬を使えば収穫量が増える。農薬は良い物だ。」
としか言われていなかったので原因がわかりませんでした。
そんな中あるきっかけから、カルロスさんは農薬の危険性を知ります。
『こんなものを使っていたのか?』と驚き、考えた末『いのちを大切に
したい』という思いから、農薬の使用をやめ、コーヒーの無農薬栽培に
取り組みはじめました。1980年のことです。
はじめはみんなから『アイツは何をはじめたんだ?』『無農薬栽培で
コーヒーがつくれるはずないじゃないか!バカじゃないのか?』などと
言われ、まったく理解されませんでしたが、信念をまげずコツコツと
農場の土を健康な土に変えていき、ジワジワとまわりにも影響を与えて
いきました。
30年経った今日では、ブラジル中でカルロスさんを見習って
無農薬栽培でコーヒーをつくる生産者がたくさんいて、
"ブラジルのオーガニック(=無農薬栽培)コーヒーのパイオニア"
とまで言われるようになっています。
そしてコーヒーの無農薬栽培の取組みが、【ジャカランダ農場】単体から、
【ジャカランダ農場グループの取組み】になりつつあります。
私はこのカルロスさんの話を聞いて『生き方がカッコいいなぁ』と思って
コーヒー屋になったようなものなんです!
ジャカラダンダ農場のあるマッシャード市は、カルロスさんが亡くなった後の
2004年に、世界で初めての「有機コーヒー首都宣言」を発表しました。
【これは一人の人間の取組みがとうとう市までを動かした】すごい力強い
グッド・ニュースだと思います。(小澤談)
森を守り、森を広げるインタグコーヒー
ECUADOR INTAG COFFEE
標高1800メートル級の山々が連なるエクアドル・コタカチ郡インタグ地方。
ここは雲霧林と呼ばれる深い森がひろがっており、雨量2000~2700ミリ、
気温20~25度と良質なコーヒー生産に適した環境にあります。
この森では【アグロ・フォレストリー(森林栽培)】に取り組むことによって、
生態系と調和したコーヒー栽培が行われています。
実はこのインタグでは森を切りひらく鉱山開発プロジェクトがすすんでいました。
鉱山開発は一時的に現金収入をもたらしますが、一度掘ってしまえば
山は削られ川は汚れてしまい二度と豊かな森に戻すことはできません。
そこでその栽培方法として進められてきたのが森を切り
開かずにコーヒーを生産するアグロ・フォレストリーという
代替案でした。
アグロ・フォレストリーとは森を切り開いて農地にするの
ではなく、森を切り開かずにコーヒーやバナナ、アボガド
、パパイヤなど数十種類の植物を一緒に育てる栽培方法です。
背の高い木の陰にコーヒーの木を植えていくこと(日陰栽培)で自然と枯れ落ちた葉などが肥料となり高品質なコーヒー豆を
育てます。
農薬や化学肥料に頼らない本来の生態系の状態で様々な作物を育てる
この農法は、持続的な農業を続けることができるため、コーヒーの
相場が下がった時などにも比較的安定した経営をする事ができます。
1998年にインタグ有機コーヒー生産者組合"AACRI
(アークリ)"が設立され、コーヒー生産者の支援や教
育、豆の販売・管理、植林などを行っています。
AACRIには現在320名の会員と8名のスタッフが自然の
力を生かした方法でコーヒー栽培に取組んでいます。
AACRI代表のエドムンドさんは「森を守ることがインタグ
の豊かな気候を作ってくれている。私たちはコーヒー栽
培だけでなく、アグロ・フォレストリーの取り組みを大切
にしている。また、実際に川の水をより豊かにするため
に植林を行なっている。」と話しています。
現在インタグ河に水力発電所を作る計画が持ち上がっています。
これらをつくることで川が枯れ農園に水が行かず、川が汚れ観光や
農業などができなくなってしまいます。そのためインタグ地方では
コミュニティベースの小さな自家発電を作ることで持続可能な生活を
進めようとしています。
インタグの人々は「こどもたちに美しい自然ときれいな川を残したい」と
口々に語ります。先日撤退命令が出され今は少し落ち着いている鉱山開発
問題など、生活と切り離せない問題が数多くある中、お金ではなく環境を
優先する豊かな人々がインタグにはいます。
インタグの森を守りながら生産者の生活を向上させるベストの方策は、
地域の伝統的な農法を生かした無農薬栽培のコーヒーを作り続け、
そしてそれらを適正な価格で販売していくことです。
SlowCoffeeはおいしいコーヒーをお届けするだけでなく、コーヒーを飲む人、
販売する人、作る人、みんながうれしいコーヒーを目指しています。
メキシコ産 太陽と森の楽園コーヒー
メキシコのコーヒー生産者組合「トセパン」の豊かな森を訪れて
報告・井上智晴(スロー社の生豆仕入先 ウィンドファーム社 スタッフ)
首都メキシコシティーからバスを乗り継ぎ約6時間、プエブラ州
北東部の山岳地帯に、"太陽と森の楽園"コーヒーを森林農業で
育んでいるクエツァランという小さな町がある。
先住民のナワット族が人口の多くを占め、民族衣装を着て日常
生活を送る人が多いことからも、町中は女性の色とりどりの服装が
鮮やかに映える。バラなど花の刺繍が付された女性の民族衣装は、
すべて手縫いで丁寧に仕上げられるそうである。
一方、男性の民族衣装は真っ白な綿のシャツにズボン姿となる。
涼しそうで、農作業の多い男性の実用性にかなっている。
メキシコの先住民は、長い歴史をたどればアジアの人々と
結びつくためか、とても物静かである。
クエツァランの町は、毎週日曜日に市場がたつ。多くの人々が、
周辺の村々から乗り合いバスで駆けつけ、新鮮な野菜や果物を
はじめ、あらゆる日用雑貨も売買される。この市場の中を歩いても
静けさを感じ、落ち着いた気持ちで町中を散策できる。
市場が開かれる町の中心部は、スペイン植民地時代に建造され
た聖堂がそびえ、石畳が延びている。家々の赤い瓦屋根と、南国
の花に飾られた窓が特徴の、石造りの家々が立ち並ぶ。
市場の開かれる日曜日の正午、聖堂ではカトリックの礼拝が始まる。偶然にも礼拝が始まる時間、聖堂前に腰を下ろしていると、神父と先住民の女性が礼拝開始の儀式を始める。その様式には先住民の信仰の名残があり、スペイン人が新大陸にキリスト教をもたらした際、先住民の信仰と融合させて教えを広めたことを伝える興味深いものであった。
この西洋文化と先住民文化が交じり合う小さな町の郊外に、"太陽と森の楽園"コーヒーの育つ畑が点在している。通称「トセパン」と呼ばれるこの農業協同組合は、コーヒーをはじめ、オールスパイス(香辛料)、ハチミツなどを主に生産している。他にもマカダミアナッツ、シナモン、バニラも収穫している。「トセパン」の取り組みで興味深いことに、1つのコーヒー畑で、数々のあらゆる作物が栽培されることにある。このアグロフォレストリーと呼ばれる森では、商品作物のコーヒーやオールスパイスが、さまざまな樹木と共存して豊かな生態系を形成する。
訪問した9月はオールスパイスの収穫時期にあたり、一家総出で作業に奔走していた。オールスパイスの木は、高さ20メートル程に育ち、その枝先の実を丁寧に摘み取る作業が続く。収穫に一切の機械は導入できず、高い木に登り小枝ごと摘み取る作業となる。摘み取った実は、天日で干して乾かす。
この作業は主に女性が担い、家事の合間などに中庭で乾燥具合を確認している。ここは雨の多い地域なので、雲行きを見て、雨が降りそうな時は乾燥中のオールスパイスを取り込み、太陽が顔を出せば再び広げるという作業を繰り返す。
森の中で多くの種類の樹木が植えられるのは、木々が相互に
作用して、1年を通じて収穫が得られるためでもある。
生産者はこれを、「森をデザインする」と表現し、木々が育ち
持続的に人々に恩恵がもたらされる。
コーヒーとオールスパイスを1つの畑に植えることで、高く延びる
オールスパイスがコーヒーの木に陰を落とす。本来、コーヒーは
木陰に育つ植物のため、この上ない環境が備わる。
さらに、オールスパイスは実だけでなく葉も香りを放ち、実を好物と
する鳥を呼び寄せる。時期が終われば、葉は落ちて土に返る。
この2種類の木の相互作用を考えただけでも、生物多様性に富む
森が育まれることを感じられる。その他にもアボガド、レモン、オレ
ンジ等の果実が見られ、薪や建材として活用される樹木も植えられる。
コーヒーもオールスパイスも多くの場合、人里離れた山奥の小規模
生産者により栽培されている。農作物を出荷する輸送手段を持たない
生産者のために、協同組合のトラックが集荷して回る。
オールスパイスの効率的な処理には乾燥場が必要となり、コーヒー
も収穫後、果肉の除去などに設備を要する。
このように、持続可能な農業を文字通り実行するには、現実問題と
して資金が必要となる。
資金の問題を解消するために、「トセパン」は独自の金融機関
「トセパントミン」を設立して、生産者に融資を行う。
現在でも、一般の金融機関から農業生産者が融資を受ける事は
難しいと言う。担保の問題もあれば、「農民が借金を返すはずがない」
という先入観から、相手にもされないらしい。
いわゆる高利貸しからお金を借りたら最後、農地を手放す以外の
選択肢はなくなる。都市の周囲にスラム街が拡大する要因として、
こうした背景が挙げられる。生産者が持続的に農業を営めるよう、
資金面で便宜を図るのが「トセパントミン」の役割となる。
また、生産者の収入が安定するためにも、あらゆる作物から
収入が得られるよう組合は努めている。コーヒーとオールスパイスに次ぐ産物に、ハチミツがある。ミツバチには針がなく、女性や子供でも手軽に養蜂に携わることができる。そのため、住居の近くでミツ
バチは飼われており、学校から帰った子供が家の手伝いを兼ねて
世話をしている。
農薬が一切散布されることのない野山を飛び回り、ミツバチはハチミツを集めてまわる。地域に200種とも言われる花からなる
ハチミツは、他で味わうことのできない独特の風味を持つ。
ハチミツは古来から薬としても利用されてきたと言う。さらには、ミツ
バチが山々を飛び回り、コーヒーをはじめ多くの植物の受粉を促して
いる。生産者によると、ミツバチによる受粉の助けがなくては、この広
い野山で多くの収穫を得る事はできないらしい。「ミツバチも同じ有機
農家である」と、冗談めかして話していた。
また、「トセパン」の活動で欠かせないのが「女性の地位向上」の取り
組みにある。男性優位の習慣が強く残る先住民社会において、メキシコ
国内でも高い意識を評価される数々のプロジェクトを展開している。
女性達の裁縫の技術は高く、色鮮やかな刺繍が施された衣服を、
1つ1つ丁寧に縫ってゆく。子供用から大人用のシャツやブラウスを
縫い、それぞれに刺繍を施し、縫い目もしっかりとしている。
裁縫に携わる女性がグループをつくり、組織的に活動を行い、経済
的にも家計の一助となっている。仕事の対価を受け取り、社会的に
も認められることで、女性達は自らに自信を持つようになる。
女性の社会への参加は「トセパン」を大きく活性化させ、協同組合を
力強く支えている。裁縫の他にも、文房具やパンの販売にも携わり、
女性が店主を務めている。
男女共に若者が生き生きと仕事をこなし、経験豊富な年長者が
見守り、必要な時には的確なアドバイスを与える。
若者に責任ある仕事を任せ、若者を信頼して見守る年長者の姿が
そこにはある。
お互いの信頼関係で成り立つ協同組合は、次の世代に受け継ぐ
べく、長期的な展望でさまざまな困難を乗り越えてゆく。
森を守り、森を育むアグロフォレストリーによるコーヒー
⇒"太陽と森の楽園"コーヒー